大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所 昭和37年(家)2248号 審判 1963年3月22日

申立人 甲野フサ子(仮名)

相手方 甲野千男(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、金二八、五〇〇円を即時に、昭和三八年三月一日から申立人との別居期間中毎月金一〇、〇〇〇円宛をその月の末日までに送金又は持参して各支払いせよ。

理由

申立の要旨は

一、申立人は相手方と、昭和三五年三月三一日相手方の氏を称して婚姻しているが、申立人は母を扶養しなければならない立場にあるため、相手方に申立人の母の養子になつてもらう予定であつたもので、相手方もこの事情を了承していた。

二、相手方は結婚以来、申立人との夫婦共同生活には協力しないで、その身内のことに対しては協力的であり、他に女関係を生じ申立人に対する愛情がなくなつたこと等から、夫婦仲が円満を欠くに至り、昭和三七年一一月福岡家庭裁判所に離婚調停の申立をした。申立人は当時すでに妊娠していたので、生れて来る子供のことを考え、離婚することを拒み、相手方に対し協力方を求めるともに別居生活中における申立人の生活費と出産費用を請求したところ、相手方は調停の申立を取り下げ、直ちに福岡地方裁判所を離婚の訴を提起した。

三、上記訴状に請求原因として記載されている事実は、無く無根のことであるのみならず、仮りにそのような事実があつたとしても、婚姻を継続し難い重大な原因となるようなものではない。相手方が申立人と別居するについて、また離婚の訴を提起したについて、申立人には何らの責められるような点はないのであるから、申立人は相手方に対し婚姻継続中生活費として毎月一五、〇〇〇円宛および出産費用として二五、〇〇〇円の支払を請求する。

というのである。

当裁判所の判断

一、記録中の戸籍謄本、調査官久保園忍作成の調査報告書を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人と相手方は、昭和三〇年頃知り合い恋愛の末、相手方から求婚するに至つたものであつて、その際、申立人は相手方に対し、申立人が相手方より六も歳上であること、申立人においてその母を扶養しなければならない立場にあるので、婚姻すれば相手方に母をも扶養してもらわねばならない事情にあること、等を説明して慎重考慮方を促しやや長期間上記申入れに対する回答を見合わせていたところ、相手方から熟慮の結果であるとして熱心に希望するので、遂に承諾し、昭和三三年一一月三日結婚式をあげた。その後夫婦円満に生活していたが、相手方において申立人の母との養子縁組を肯じないので、婚姻届がおくれ、遂に申立人、およびその母も養子縁組をすることを断念し、昭和三五年三月三一日婚姻届をした。

(2)  夫婦として同棲した当時、申立人は○○○百貨店に勤め、相手方は運送店の臨時役夫として働き、各月収一万円宛を得て一家三名の生活を立てていたが、申立人は昭和三四年九月三〇日退職して家事に専念し、相手方は同年一一月○○証券投資信託販売株式会社にセールスマンとして就職し収入は次第に増加した。ところが、相手方は次第に収入が増加し月額三~四万円の収入をあげるようになつたのであるが、申立人に対して生活費として毎月一万~一三、〇〇〇円を渡すのみで、自分の洋服を新調したり(代金合計二〇万円位を支払い)、申立人に内密に相手方の身内の者に送金したり、情婦をこしらえて無断外泊するようになつたので、夫婦仲が円満を欠くに至り、昭和三七年一一月中旬家出し申立人と別居するに至つた。

(3)  相手方は、昭和三七年一一月離婚調停の申立をした(当庁昭和三七年(家イ)第六二一号事件)のであるが、申立人において一時は離婚を決意していたものの、調停当時妊娠していることが判つたので、思い直し離婚に反対したので、同年一二月一二日調停申立を取下げ、翌一三日福岡地方裁判所に離婚の訴を提起した。

以上の認定事実にれば、申立人と相手方が別居するについて、正当な理由があるものとはいい難く、調査の結果を詳細に検討するも、別居につき申立人にのみその責任があるものとは到底認めることができない。

二、そうすると、相手方は夫として、申立人に対し、別居期間中、婚姻によつて生ずる費用を分担すべき義務があるといわねばならないので、以下その額について検討する。

(1)  上記調査報告書と、申立人提出の生活費明細書によれば、申立人は福岡市営住宅○○○団地○○号住宅を家賃月額一、一〇〇円で賃借し、母ミサと同居していて(相手方も昭和三七年一一月中旬家出するまでここに同居した)、申立人自身の一月の生活費は家賃その他一切の経費を含めて最低一二、〇〇〇円を必要とすること、および相手方は○○証券投資信託販売株式会社にセールスマンとして勤務し一月の収入(手取額)は平均三五、〇〇〇円を下らないところ、申立人に対し、別居以来昭和三八年二月末日まで一月につき五、〇〇〇円宛送金していること、を認めることができる。

上記調査報告書に○○○編機福岡地岡地区総轄支店長相田忠彦作成の報酬支払月額明細書を総合すれば、申立人は、編物講習の講師を内職とし、昭和三七年一〇月から昭和三八年二月に至る間月平均四、五〇〇円の収入をえているところ、現在妊娠中で昭和三八年六月初旬出産予定の身であるので、当分の間従来通り収入を挙げることはできないものと認められる。

申立人および相手方の如上の生活、収入状態等を比較検討すれば相手方は申立人に対し、婚姻費用の分担として一月につき少くとも一〇、〇〇〇円を負担するのを相当と認める。

(2)  上記調査報告書、医師加山義一作成の診断書、申立人提出の出産費計算書を総合すれば、申立人は現在相手方の子を懐胎し、昭和三八年六月初旬出産予定であつて、それまでに準備しなければならないものとして、新生児用品に一四、〇〇〇申立人(産婦)用品に四、〇〇〇円合計一八、〇〇〇円を必要とすることが認められる。申立人において右金員を支出する能力のないことは上記のとおりであつて、相手方は婚姻費用の一部として、申立人に対し上記一八、〇〇〇円を支払うべき義務のあることはいうまでもないことである。申立人は入院費として七日分合計一二、〇〇〇円の支払いを求めているけれども、入院するかどうかは、現在では未だ確定できない事実であるのでこれに要する費用として、現在請求することは相当でない。申立人が現実に入院した際その費用を請求するのが相当である。

(3)  相手方提出の計算書によれば、相手方の支払費月額は四〇、九五〇円にのぼり、申立人に対しその生活費を仕送りする余裕はないというのであるけれども、それは申立人に送金しない前提の下に作成されていることは、その記載によつて明らかであるのみならず、夫婦間の扶養義務は、お互に生活できるようにする義務であつて、生活して余りがあれば他方を援助すれば足るというような軽い義務ではないので、相手方が生活して、財政的に余裕がないということで上記義務を免れることはできない筋合である。

(4)  申立人が相手方に対し上記調停事件の調停に際し生活費と出産費用の支払を請求したことは調停の経過により明らかであるのでその後申立にかかる本件申立日であること記録上明白である昭和三七年一二月二八日から別居期間中、婚姻費用の分担として一月につき金一〇、〇〇〇円の支払を命ずべきところ、上記の如く相手方において昭和三八年二月末日まで毎月五、〇〇〇円宛支払つているので、その間の不足額合計一〇、五〇〇円を即時に、昭和三八年三月一日から別居期間毎月一〇、〇〇〇円宛をその月の末日まで支払い、また、出産費用一八、〇〇〇円を即時に支払うよう命ずべきとす。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 藤田哲夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例